シャムキャッツは青春だった
2020年9月16日、私が大学4年間好きだったバンドが解散し、最後のベストアルバムを出す予定の日だった。
なぜ覚えているかというと、私の誕生日だからだ。
結局、いろいろもめたようで発売日は延期。
LP盤を聴く術がなかったので、買うこともなく終わった。
私は大学生の頃、彼ら以上にクールでキュートな大人はいないと思った。
出会いは大学1年生。軽音楽部の先輩がコピバンをしていたのを聞いたからだ。
コピーしていたのは「AFTER HOURS」。
ほかにはない浮遊感と、独特の空気感があった。
大学生の私には格好良すぎた。
それに付随して、シャムキャッツを好きな先輩たちと話す時間が好きだった。
お酒を飲んで歌詞の話をして、いいギターの音だと話した。
シャムキャッツの周りにも、シャムキャッツの話をする私の周りにも、緩やかで優しい時間が流れていた。
2019年3月。
西荻窪の公園でシャムキャッツが無料でライブをするという情報を得た。
当時、私にも私の周りの人にもとにかくお金がなかった。
ライブに行きたいけど4000円も惜しいし、謎の+ドリンク代がとにかく痛かった。
そんな状態だったので、西荻窪の無料のライブにはワクワクしながら向かった。
晴れた春の公園。公園を囲むようにマンションが立ち並び、子供連れの家族がたくさんいた。
一緒に行った先輩は私の友達に片思いしていて、公園に広がる幸せの光景に苦しんでいた。
私もなんだか苦しかった。
演奏はめちゃくちゃよかった。
その中でも一番良かったのは「GIRL AT THE BUS STOP」だった。
私はなぜかその曲を知らなかった。なので、生で聞くのが初めて聞く瞬間だった。
菅原さんのギターソロがとにかくよかった。
昼間の公園に響き渡るギター。切なさでいっぱいになった。
ビール片手に「さっきの曲ってなんの曲ですか?」と先輩に聞き、曲名を教えてもらってすぐにCDを購入した。
「LAY DOWN」みたいな生活がしたいという話をした。
「She's gone」が私には刺さった。
「WINDLESS DAY」は夕方の吉祥寺駅で聞いた。
とにかくいろいろな場面で聞いた。
私が生で「GIRL AT THE BUS STOP」を聴いたのはあのライブが最後だった。
10周年ライブも行けそうだったが、もう聞いてないし、と言い訳をしていかなかった。
「シャムキャッツ」という青春の権化がなくなると思わなかった。
いつバンドなんて解散するかわからない、とよく言うが、まさにそれだった。
シャムキャッツが解散してもなお、私はシャムキャッツを思い出すと古傷がうずくような感覚がする。
よく、曲を聴いてその時の温度やにおいを思い出すというが、シャムキャッツは秋のにおいがするし、吉祥寺と西荻窪の景色が思い出される。
西荻窪に一緒に行った先輩とは本当に仲が良かったけれど、大学を卒業してからほとんどあっていない。
先輩の誕生日を思い出したのも10日過ぎてからだった。
そんなもんだ。
それでもあの景色が私の中でトラウマのように残っているし、今でも写真のように情景が浮かぶ。
バンドがなくなっても音楽はなくならないし、思い出は消えないけれど、私はいつまでもシャムキャッツがいたころのことを追いかけてしまうだろう。
2021.9.15